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呪いを解く(「いちから聞きたい放射線のほんとう」菊池誠・小峰公子・おかざき真里) [ひと/本]

たいていのファンタスィ、そしておそらくたいていのRPGにおいては、「知る」ことをエンジンにして冒険が駆動されていく。

いちから聞きたい放射線のほんとう: いま知っておきたい22の話 (単行本)

いちから聞きたい放射線のほんとう: いま知っておきたい22の話 (単行本)

  • 作者: 菊池 誠
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2014/03/15
  • メディア: 単行本

地形や伝説を知ることにより宝物を見つけ、相手を知ることにより戦いに勝ち、魔法の原理を知ることにより呪いを解く。そうして、主人公たちは勝ち(あるいは負け)、理不尽な環境から開放される(あるいはとどめおかれる)。もちろん勝つために、開放されるために必要なのは知識のみではなく、主人公たちのいろんなスキルや判断力、その状況で必要とされるアイテムがそろっているか、なども重要なのだけれど、すくなくともそれらを役立てるための知識を入手することはつねに必須だ。

でまぁ、これはある意味ぼくらの人生そのもので。すぐれたファンタスィやRPGがぼくらに与えてくれる感動も、これらの構造がぼくらの実生活のアレゴリーとして適切に用いられていることから来る部分が大きいと思う。
理不尽な状況に投げ込まれた、ぼくらの人生の。

「科学と呪術」的な議論については、このブログでもずいぶん前から、ずいぶん長い間議論してきた。ぼくたちは自然に、世界を呪術的に理解する。その結果として、ぼくたちは呪われる。自分自身に、あるいは接しただれかに、または社会に。
ぼくたちは世界の身も蓋もない理不尽さにさらされていて、突きつけられたその断片をぼくらは(まずは)呪術的に理解する。その瞬間にぼくたちは呪われ、ぼくたちの思考と行動はある範囲に呪縛される。呪いの契機は自然災害かもしれないし、なにかしらもっと社会的なものなのかもしれない。いずれにせよその呪いからまぬがれ、自由を取り戻すためには、呪いの契機を、原因を知ることが不可欠だ。

でも、ぼくたちみんながガンダルフであるわけではない。だれもが魔法使いとして世界の秘められた理を自明のものとして理解する能力を持って生まれているわけではないし、時間をかけて高度な修行を積めるわけでも、導師から適切で入念な指導を受けられるわけでもない。だから、おのれの力とリソースを最大限に有効活用するためのアイテムが必要になる。

「科学は現代において宗教の代替的役割を持つ」と云うのは以前からの地下猫さんの主張で、この主張に対しては(そうとう注意深くなされなければ、容易にロジックの倒錯を招く虞がある主張であるとは思うものの)基本的には同意で。世界の理不尽さを理解しようとする探求、という面において、科学は人間の歴史の中で積み重ねられてきた真摯な宗教的・魔術的アプローチの末裔に(それらから見ると傍流として)連なり、その一部を代替しうるものだと思う。
その意味では、この本は(福島第1原発事故と云う)ぼくたちに突きつけられたひとつの理不尽とそのもたらす呪いに対する、ぼくたち無能な魔法使いの弟子にうってつけのエクソシズムのアイテムだ、と云うことができるのではないか。

もちろんどれだけ注意深く著述しても、最終的にぼくたちが理解できる範囲には限度があって。そんなぼくたちにターゲットを絞って基礎の基礎だけでも伝えようと試みる本である以上、どうやったってある程度正確さは犠牲になる(ここは知る限り、多くの科学コミュニケーターが最初から大きな葛藤なく自分を免責している部分だ)。この本について云えば、対話の相手方として登場する小峰公子と云うやたらと優秀な「魔法使いの弟子」がぼくたちを代表してくれることによって、そのあたりをそうとうにうまく回避していると思う。
少なくとも、この本のなかで何度も繰り返し述べられる「量の概念」を大づかみに理解するだけで、ぼくたちは(とりわけぼくのような「無能な弟子」層には)福島第1原発事故によってかけられた呪いのかなりの部分を解くことができる、と思う。

ただ、留意点がひとつ。
もうダマされないための『科学』講義」が出た際にどらねこさんのブログでみつどんさん・黒猫亭さんを交えた鼎談書評が行われたのだけれど、その2回めであるもうダマされない為の読書術講義(?):その2で、菊池誠の文章について黒猫亭さんが「論旨がコンデンスされすぎている」「あの程度の文章量で菊池さんの考えが全部まとまっているから、全部読まないといけない。」と指摘している。本書はあえて(装丁やエディトリアルワークも含めて)意図的に余白を設けて著述・編集されているのだけれど、それでもじつは情報密度は(基礎的な情報であり、また極端に読みやすくはあっても)けして低くない。なので、軽快に進む対話のリズムに乗っかっていると、読み逃すべきではない内容まで思わず流し読みしてしまう、と云う可能性がありうるんじゃないかとか懸念する。
と云うわけで、時間があれば、複数回読んでみることをお薦めしたい。いや、2回とか読んでも、同じ厚さの本を1回読むよりもっと早く読めるって思いますよ。
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